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CROとしてのご挨拶と記事のご紹介

2021年4月1日 CRO

Ridge-iのChief Research Officer (CRO、研究統括責任者) の牛久です。

4月1日ということで、学校や多くの法人では新年度を迎えたことかと存じます。弊社でも今日からの新メンバーを新たに迎えて、フレッシュな気持ちでいるところです。

さて、こちらのブログが少し前からCEOブログ→CEO/CROブログとなっておりますが、そもそも「CROってなに?」という方も多いのではないかと思います。そこで改めてこちらでもご挨拶させて頂きます。

まず私の中でのCROの役割は、研究者としての知識の提供と、研究と言う知的生産活動のプロフェッショナルとしてのR&D活動の差配にあります。分かりやすいのは後述するリチャード・ラシッドのような研究所長のイメージですが、更にその後に触れる「イノベーションはなぜ途絶えたか」という書籍でも述べられているように、研究部門以外にも関わっていくことも重要だと思っています。

私自身は研究者としてのキャリアを歩んで来た人間で、大企業の基礎研究所で研究員をやったり大学で教員をやったりしたこともあります。その一方で、研究成果を素早く社会実装し、そこから得られた利益や更なる課題を以てさらに研究を加速させるというループの重要性を痛感し、現職に至っております。実は現在もRidge-iを含めて複数の機関に所属しており、Ridge-iでは経営層かつ学術顧問として存在しておりますが、他では研究者として(オムロンサイニックエックス株式会社)、講師として(津田塾大学)勤務しております。

私自身の入社は2年ほど前になるのですが、その際にまず先行事例として念頭にあったのがマイクロソフト社のリチャード・ラシッドです。彼は計算機科学の研究者としてカーネギーメロン大学に在籍していたのですが、マイクロソフト社の研究所の立ち上げの際に招聘されてChief Research OfficerとしてMicrosoft Research (MSR)の初代所長を務めました。現在は計算機科学分野の諸分野でMSRの存在感はすさまじく、私自身インターン研究者としてMSRにしばらく滞在したこともあります。その後現在に至るまで国際的に学術活動をしている中でも、先端的な研究と社会実装を情報分野で両立させている歴史の長い企業としてリファレンスであり続けています。

その後読んだ山口栄一氏の「イノベーションはなぜ途絶えたか」でも、理念の近いChief Science Officer (CSO) が紹介されていました。

現代のすべての企業活動は、その結晶核として常にコア・コンピタンス(事業能力を根本で支えている一連のスキルセット)を内在させている。そしてそのコア・コンピタンスの他社とは異なる独自性こそが、企業の競争力の主要な源泉である。

その独自性は二つの要素から成立している。第一にコア・コンピタンスの要素を成立させている「知」それ自体の独自性。第二に複数の「知」を互いに関連付け統合する仕方の独自性である。

前者の「知」を創り出す知的営みを私たちは「科学」と呼び、後者の「知」を統合して製品やサービスという価値に具現化する知的営みを「技術」と呼んだ。 単に科学者がいるだけでは組織の能力にはなりえない。科学的思考能力、すなわち見えざる「知」を想像し発見する能力を組織内で体現し、維持しなければならない。それこそがCSOの役割にほかならない。

CTOは「知の具現化」を担当し、CSOは「知の創造」を担当する。この2人は、その監督下でそれぞれの従業員の最適配置を考える。CSOが監督する人材は研究所に局在させる必要はない。

むしろ「科学を企業に埋め込む」という思想で、技術部門や安全・安心部門、CSR(企業の社会的責任)部門などに配置して、会社組織の科学的思考能力を常に担保するほうが望ましい。「夜の科学」を担当するCSOが、「昼の科学」を担当するCTOに対して道徳的緊張を保つことこそが重要なのである。この下に企業内科学者と技術者との緊張関係が生まれる。

(山口栄一、イノベーションはなぜ途絶えたか ──科学立国日本の危機 (ちくま新書)、筑摩書房)

上記の「科学」と私の言う「研究」は同じものを違う角度から表現しているだけのように思います。ある時点の「科学」という状態と、それを生み出す「研究」という時系列的な変化、というくらいの違いにすぎません。研究と社会実装のループを加速する上でも、CROは上記のCSO同様に研究部門以外も積極的に関与していく必要があると思っています。そして研究的視点を備えた企業として、Ridge-i自体を成長させながらその研究活動も活性化させていきたいと考えています。

最後に有料記事のお知らせで恐縮なのですが、人工知能学会の学会誌2021年3月号の特集「企業における研究開発部門の役割と創出価値」において「3 年後の壱萬円札に寄せて ─どうすれば現代に研究者の楽園を確立できるか─ 」と言うタイトルで企業R&Dに寄せる思いを述べております。このブログ記事ではCROと言う肩書の定義と抱負を述べましたが、併せてこちらの記事もご高覧頂けると大変ありがたいです。AI分野を取り巻く多くの企業のR&Dについて実直な記事が集まっておりますので、ぜひご覧ください。

今後も様々な情報発信を行ってまいりたいと思っております。引き続きRidge-iの牛久をよろしくお願い致します。